砂礫の大地に降り立つ予言者

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zoom RSS キミと走る。 ここのかめ

<<   作成日時 : 2008/08/14 21:05   >>

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「たーまやー」

 夜空に咲き誇る大輪の花を見て、香坂は声をあげる。定番の言葉だ。服装も花火を見上げるに相応しい装いで、紺をベースにして桔梗模様がちらちらと浮かんでいた。子供が着るような装いではない。
 周囲には様々な人々が混在していた。親子連れにカップル、部活やサークル関係での集団はもちろんのこと、単なる友人同士での見物客もいる。香坂もそのうちの一人だ。

「かーぎやー」
「…千織、その棒読み止めたら?」

 大して感慨も沸かないのか、千織がいう定番の文句は心なしか気持ちが籠もっていない気がする。その証拠だというように、千織はせっかくの夏の風物詩である浴衣も着ていない。楽しむために来たのだというのに、そんな自覚は全くないようだ。

「いいじゃない。こっちは迷惑でもあるんだから」
「ぅぐ」

 千織の言葉に香坂は言葉を詰まらせる。正論だ。そもそも花火大会には千織と来る予定などなかったのである。本来ならば、彼氏となった濱田と来るはずだったのだから。

「で、今回の原因は?」
「く、くだらないこと」
「そう。いつもくだらないからさっさと言いなさい」
「………」

 花火を見上げながら語るには十分にくだらない内容だ。だというのに、千織は話せと言ってくる。それは千織なりの気遣いでもあり、秘めた怒りの一つでもあった。
 そもそも用事があると断られたと言うのに、ごり押しに近い形で約束を交わしたのだ。怒らない筈がない。

「…いつもと変わらないわよ。ただ…、構ってくれなくなった、って、言っただけ」

 俯いて落ち込むように言葉を紡ぐ。咲き誇る大輪の花を見ながら思い出したい喧嘩ではないのだ。だが、千織の反応は素っ気なかった。

「…馬鹿?」
「馬鹿とか言われる筋合いないけど」
「学校が違うんだから生活のリズムが変わるのは当然でしょう?濱田はまだ合わしてる方だと思うけど」
「そりゃ、そうだけど…」
「同じ所にいれば同じ時間を共有出来ただろうけど、今は違うんだから仕方ないじゃない」

 的を射た言葉に、香坂は少し涙を滲ませる。俯いているからこそ見えないだろうそれは、けれど千織にはわかっていた。

「成長した分だけ我慢が増えるんだから、それに順応しなきゃいけないでしょ。…まぁだからって、それを溜め込む必要もないとは思うけどね」

 何も親友を泣かせることは本意としないのである。香坂は千織の言葉を聞きながらまた涙を零す。
 花火はただただ咲き誇り、美しく散っていった。

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